「今、3時過ぎ。夜明けまであと……3時間半ってところか。マズいな………」
「ええ……?あれ、追い付かれたらどうなるんでしょう」
「さあ?けど、『んー、んー』って声が聞こえてきたら、それが奴だ」
聞こえたら手遅れなやつでは?
「今の奴の状況は!」
蓮華戸さん(仮)が、さっき奪った双眼鏡を私に返して後ろを指差す。それを取って、これまでに辿ってきた道を探す。
居た。これまでよりもかなり距離が縮まっている。どうやら私達の通った道をそのまま辿っているようだ。
『奴』と目が合う。これまではニタッと笑っていたのが、口を一文字に結んで、目だけギョロッと開いてこちらを睨んでいる。
「こ、こっちを睨んでますけど!」
「そうか、困ったな……。『奴』が変質した。捕まったら何されるかは分からないけど、十中八九逃げ切らなきゃ詰みだよ」
ええ……。とはいえ、なってしまったものはもうどうしようも無いので、ひたすら走る。
「どこか、良い場所あったりしません?」
「良い場所?隠れるのに?逃げるのに?」
「どっちでも!」
蓮華戸さん(仮)は少し考え込んで、何かを思い付いたように手を打った。
「………これから3時間、休まずに走り続ける元気、あるかい?」
「やるだけはやってみます」