それから、本当に3時間くらい、ひたすら走り続けた。スタミナを考えてか、蓮華戸さん(仮)は少しゆっくり走っていた(それでも十分過ぎるほど速かった)けど、やっぱり焦りが見える。ルートは大体一直線。少し離れてはいるけど、川に沿って移動してるみたい。
「はぁ……はぁ……、これ、どこに、向かって、るんですか……」
「………っはあ、えっと、ね……、………ッ、『奴』は今どこに!」
言われて双眼鏡を覗きながら後ろを向く。すぐに見つかった。『奴』はもう、300mかそこらしか離れていないところまで近付いていた。
「ああ!もうすぐそこに!このままじゃ追い付かれます!」
蓮華戸さん(仮)はそれに答えず、安っぽい腕時計を見ながら走っている。
「蓮華戸さん!」
「………大丈夫。ギリギリ勝った」
蓮華戸さん(仮)が急に曲がり、川に架かった橋を渡る。何とかそれに対応して、私もついて行く。『奴』の鼻歌のような声が聞こえてくるような気がする。
「だ、大丈夫なんですよね!?」
「……うん、もう大丈夫」
私が橋に足を踏み入れたと同時に、蓮華戸さん(仮)が言う。
後ろを振り向くと、『奴』がすぐそこまで迫っていた。
「ごめん、それ返してもらうね!」
蓮華戸さん(仮)が、さっき私に寄越してから放置されていたマックスコーヒーの缶を引ったくって、『奴』に思い切り投げつけた。それは見事に『奴』の頭に命中し、その足を止めるに至った。
「さあ、これでチェックメイトだ」