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対怪談逃避行9

蓮華戸さん(仮)が言うのと同時に、足元に振動が走る。
「これは……!地震、いや……」
橋の、『奴』のいる側と反対側を支点に、橋がゆっくりと回転しているのだ。それによって道は分断され、『奴』は岸に留まることになった。
「旋回橋だよ。船が橋のあるところを渡れるように、こうやって動くんだよ。いや、逆かな?船の通る場所に架ける橋だから、こうなるのか。まあ良いや」
突然の轟音。驚いてその方向を見ると、中型船が橋のあったところを通過しようとしているところだった。
「もう日が昇る。それで僕らの勝ちなわけなんだけど……。最後に『奴』に何か言っておきたい事とかある?」
言いたいこと、か。正直、恨み言なら山程言いたいと思ってる。こいつのせいで夜通し怖い思いしながら走り続ける羽目に陥ったわけだし。
けど、そういえば蓮華戸さん(仮)は言ってたっけ。『怪異を存在させるのは恐怖』って。だとしたら……。
私は、『奴』のいる岸を正面に立って、船が通り過ぎるのを待った。遂に船は通り過ぎ、『奴』と正面から向き合う。睨んでくるその目を真っ直ぐ見返してやりながら喉の左端に右手の親指を当てて、ピッ、と右に引きながら、言ってやった。
「失せな化け物。あんたの時間は終わったんだ」
恐怖が力になるのなら、『お前なんか怖くない』って気持ちは、きっと武器になるはずだ。
段々と東の空が明らんでいく中、人外の不気味な断末魔が響き、そしてそこには、何も居なくなった。
「…終わった……?」
「うん、お疲れ。しかし、最後の啖呵、なかなか格好良かったじゃないか」

  • 長編小説
  • やっと倒せたぜ
  • 都市伝説(?)アレンジ
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