「ッ!? 何だ!?」
鍵を拾った瞬間、足元から聞こえた声。咄嗟に飛びのく。
「……良い反射神経だ。わざわざ『それ』を取るだけのことはある」
さっきのと同じ声が、今度は背後から聞こえてくる。
「!?」
振り向く前に、何者かに目と口を手で塞がれる。
「んがっ!」
藻掻こうとしたけれど、直後に手が離れ、さっきまでいた場所とは全く違う空間にいた。
「ここは……?」
「ようこそ、もう何人目かのお人。これであなたも、晴れて我々の仲間入りというわけです。先程の非礼については、勘弁してくださいな」
さっきから聞こえてくる声が答えた。声のする方を見てみると、背の高い、足が一本しか無い男が立っていた。
「なっ、何者!?」
「そんなことはどうでも良いわけで。我々にとって名前にそう価値はありませんで。そういうわけで名乗りは結構」
「……じゃあ、何になら価値があるんです? 相手を呼ぶ時はどうすれば?」
「適当にしてくれれば。大抵の場合、私は『片脚の』だとか『しめじ野郎』だとか呼ばれておりますよ」
何故しめじ。
「何に価値が、という話ですが……」
片脚の男は、腕組みをしてしばらく考え込んでから答えた。
「我々の為した事に、でしょうかねぇ……」
「為した事?」
男は懐から一冊の手帳を取り出しながら続けた。
「ええ。あなたも聞いたでしょう? 『ミラークロニクル』。その編纂ですよ」