今日は皆既月食が見える日。
私はいつもの窓辺で空を眺めていた。
『皆既月食、探してるのか?』
先生は後ろから優しく声をかける。
「う〜ん。探してるんだけどもう梅雨だから。曇ってるね。」
私はいつものように窓辺に腰掛けると、先生をみて微笑んだ。
『雲の向こうに行けば月を見れるかもな。』
「地に足つけて見るのがいいんだよ。届かない感じがさ。」
空を眺める先生の横顔を見ながらそう答える。
『そっか。君はロマンチストだからな(笑)。』
「それ、いじってるの(笑)?」
『いじってないさ。私も流星群や月食は好きだよ。』
私はもう一度立ち上がると空を眺める。
「ねぇ、雨、降りそうじゃない??」
『予報ではいつ降ってもおかしくないって感じだったな。』
「う〜ん。次は12年後か。スーパームーンで見れる月食。」
『スーパームーンじゃなくてもいいなら来年見れるんじゃないか?』
「そうね。12年後、生きてるかもわからないし(笑)。」
私はいたずらに笑う。
『歳と12を足しなさい。』
「言いたい事はわかってるよ(笑)。でも、いつ何があるかなんてわからないでしょ?だから12年先の事なんてわからないよ(笑)。」
『12年先も、何もないと良いな。』
先生は私の言いたい事を理解したかのように、そう言った。
「さ、もう見れないだろうしご飯食べよ?あ、そういえばアルは?」
『部屋で仕事してるんじゃないか?忙しそうだったよ。』
「そっか、じゃあアルの部屋に寄るのが先だね!」
私達がアルの部屋へと足を向けたとき、小さな粒の雨が降り始めた。