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『抗議 畢竟猫には敵わない』上

 不本意に頭を悩ませているそこの人間は、どうやら言葉が上手くないことを自認しているらしい。よく4本足の高台に向かって何やら作業しているのを見るが、本日はその作業のお供であるペラペラの爪とぎと、追いかけ回したくなる細い棒はない。どうやら、“しごと”に向かっているわけではないようだ。
 先に4本足の高台といったが、別に届かない高さなんかじゃない。距離を測り、少しぐっと踏み込むだけで、ほら。着地はお手の物である。
 それにしてもこの人間、いつもならこうするだけで目を丸くし、顔をほころばせるというのに、本日はどうしたものか。“すまほ”に向かってうなっている姿は、さながらけがをした子どものよう。……けがをしているのか?
 この人間には、ごはんを用意させている。住処を整えさせている。日々、撫でさせてやっている。……けがをしているとなると、問題である。自分の生活に影響が生まれるからである、あくまで。
 顔をすりつけると、この人間は喜ぶ。それを知っている。たまには喜ばせてやるのも悪くはない。
「わ。どうした、今日は甘えたさんだな」
 喜ばせてやっているだけぞ、勘違いするでない。
 それにしても、一瞬の曇った顔をみたぞ。何がどうしてそんな表情にさせるのだ。やはり、けがなのか。
「にゃー」
 本日は“さーびす”である。人間は“さーびす”が好きだ。
「おしゃべりなんて珍しいな。構ってほしいのかー?」
 笑ってはいるが、なんだかさみしそうだぞ、人間。もしかして、けがをしているのはもっと他の部分なのか。
 それにしても、撫でる技術が上達している……ううむ、意思疎通が図れたのならば、褒めて遣わすというのに。
「お互いの言葉が通じなければ、信頼関係だけで成り立っていたかな」
 ……何を言っているのだ?

  • はじめましてさんこんばんは
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