懐かしいと言えば
懐かしさが途端、輪郭をもつ。
この場所が好きだった、と理由の切れ端が輝く。
ただ二酸化炭素みたいな重さの気持ちが
足元に取り憑く。
さようならを言い忘れたのではなく、
言えなかった、言わなかったのではなく、
言葉にしない芸術の在り処の証明。
『この場所が好きだった、』
別れの言葉を神格化した僕の過去形。
やぁ、また会えたね……
いつか嗅いだのと同じ風がまたこの場所を巻いて、ぼくらの髪をそよがせていく。屋根がなく、壁いっぱいの黒板に囲まれた広間のようなこの部屋にまた、ことばを少し書きつけていく。陽を浴びて、息をして、今日もこっそりと「好き」をポケットに。