ー最後の夏、あいつと夜空を観に、山へ登った。
少し肌寒い、髪を揺らす風が2人の間を駆け抜ける。
目を細めて笑ったような顔をしながらあいつは言う。
「都会の夜空って、なんであんなにも自分には響かないんだろうね。
明るい夜なんて、つまらないでしょ?」
それから、こう続けた。
「それにさ、君がいないと、もう価値を見出せなくなりそうで。
やっぱり1人で見るもんじゃないと思うな、夜空は。」
そう言ったあいつの顔は、暗くて何も見えなかった。
微かに震えたように聴こえた言葉尻を確かめる術は、もう無い。