別館の5階のベランダも、教室のベランダも、今日はぼくが一人ボーっとしていられるような場所ではなかった。
売店が入っている建物の入り口に座り込むのも、人の目が気になるし。
というか、今日とうとう先生に絡まれてしまった。
だから誰もいない場所を求めて校内をさまよい…本館の裏に辿り着いた。
普段から、ほとんど人気がない校舎裏。
午後の光に照らされる薄汚れたコンクリートの校舎の壁と、学校の敷地と裏の高層マンションとを隔てる2メートルほどの壁、そして学校の裏にある高層マンションしか見えない風景は、まるで異世界のようで…とても自分が通っている学校に見えなかった。
よく見るとそれなりに手入れがされた植え込みがあり、ガスや水道のメーターの側には、人間が腰掛けるのにちょうどよさそうな段差もある。
よさげな段差に腰を下ろし、上を見上げると学校の裏にある高層マンションが見えた。
大人たちはあのマンションを「邪魔」と言うけれど、ぼくはそう思わない。
マンションのガラス張りのベランダの柵が、光を反射しキラキラと美しいのだ。
今日みたいによく晴れている日には、ガラスの柵が空の青を反射して建物が青く見える。
あんまり綺麗だから、思わず「わ」と声がこぼれてしまった。
もちろん、ガラス柵には空の青だけではなく、学校の傍のビルや学校の本館も少しばかり映り込んでいたが。
それでもぼくは、ガラスの青をしばらく眺めていた。
ガラスの中を雲が流れ、ぼくは秋の日差しの中で誰にも邪魔されずボーっとした。
ここには自分と地を這う蟻んこぐらいしかいない。
と思ったけど、校舎裏をぱらぱらと運動部の子達が通りだした。
ついでに4時台からの用事も思い出したので、ぼくは荷物を抱えてそそくさとこの場をあとにした。
居心地の良い陽だまりと、美しい青空を惜しみながら。