「…こちらにございます」
この辺りを治める領主、もとい少女をこの地に呼び寄せたあの屋敷の主人は、雪深い森の入り口で立ち止まった。
そして少女の方を向いて話し出す。
「配下の魔術師達が近くで見張っております故、どうぞ存分にお調べください…まぁ、真冬ですからそうそう領民が近付くことはありませんが」
そう言って少女達を促した。
「ご案内ありがとう」
少女はそう言いながら屋敷の主人の傍を通り過ぎ、森の中へ入っていった。
使い魔も少女の後に続いていく。
暫くの間、少女達は黙って新雪の中を進んでいった。
しかし、少女はある程度進んだところで立ち止まる。
「…あいつ、逃げたわね」
そう呟いて、少女はもと来た方を向く。
「まぁ、あれでも貴族なのよね…弱小だけど貴族や魔術師同士の覇権争いで忙しいから、精霊なんかに命を奪われる訳にはいかないものね」
まぁ、邪魔が減ったからそれで良いんだけど、と少女はまた前を向いて歩きだす。
しかしすぐに足を止め、思い出したように振り返る。
「…そういえばお前…名前は?」
少女の後方にいる使い魔はふっと顔を上げる。