「覚えてたんや、そっか…」
”彼”は私の『一年生の頃に、初めて隣になった日』という返答を予想していなかったのか驚いた様子で、嬉しそうにはにかんだ。
私も自然と微笑んだ。
『覚えてる、んだなぁ、これが不思議なことに』
「理由ってある?」
この際言ってしまうことにした。
『私、隼人のこと好きだったからさ』
静寂。
教室の冷たい空気に飲み込まれそうになりながら、
私は爆発しそうな心臓を抑えていた。
「それってやっぱり─そうか─」
少し躊躇いながら、”彼”は言葉を続ける。
「僕らは…」
『僕らは?』
「詩が、このメモにもっと早く気づいてて、
この日付覚えてるってなって、
僕が待ってた屋上に来てたら」
『…うん』
「僕が予定通り告白してさ
両想いに気づけたんかな」
『……うん
気づけたんだろうね』
「過去形なのが辛いところやな」
そう言って伸びをする。
そう。過去形。
夕日に伸ばされる、私の影。
影は一本しか伸びていない。
いや、一本しか伸ばせないのだ。
【続く】