ほとんど日も暮れて暗くなってきたが、森のどこを通ったかは覚えている。
このまま森の出口まで突っ切って行けば…とグレートヒェンが思った時、後方で何かが割れるような音がした。
「!」
まさか、と振り向くと、結界で足止めしたはずの精霊がすぐそこまで迫っている。
「さっき張ったのは簡単な術式だったけど…思ったより破られるのが早いわね」
仕方ない、とグレートヒェンは懐から黒い短剣を取り出す。
その時、グレートヒェンの視界に何かが映り込んだ。
ばさっと音を立てて現れた”それ”は、黒鉄色の大鎌を目の前の精霊に振りかざす。
突然の乱入者に驚いた精霊は、振り下ろされた刃が当たる寸前に姿を消した。
「…」
大鎌を携えた”それ”は、何もいなくなった雪原を見つめて立っていた。
「…お前」
グレートヒェンはぽつりと呟く。
「戻ったんじゃないのね」
”それ”ことナツィは無言で振り向き、こう答えた。
「別に…ただ、気になっただけ」
ふーん、とグレートヒェンは鼻で笑う。