夕日に伸ばされる、私の影。
影は一本しか伸びていない。
「あ…来たわ…」
”彼”はぽつり、と呟いて、胸を押さえた。
『今日はもう「来た」んだ…早いね』
”彼”は哀しそうに微笑んで、私を見つめた。
「僕が消えるところ、見たくないやろ
帰った方がいいんちゃう」
『見たくない、けど』
『けど、一緒にいたいから』
私がそう言うと、”彼”は恥ずかしそうに頬を染めた。
…ような気がする。
実際には夕焼けの色と混ざって見えないのだが。
「っ…幸せもんやな、僕は」
最後にふっと笑って、”彼”は夕焼けに完全に溶けていった。
私以外誰もいなくなった教室。
その静けさの中で考えを巡らせる。
あの日、私がメモに気づいて、
屋上に行っていれば─
考えれば考えるほど、
”彼”の存在の大切さが心に染みる。
チャイムが鳴った。
今日も私は、一人で帰る。
【続く】