––––お稚児さん、お稚児さん。あなたのその手に抱かれた、わたくしも一度見せ給え
夕立明けの草藪は、紫いろの空間に土の香りを沸き立たせていた。青々しさも慎ましくなった葛の中、淡いイロをした少年が一人横たわっている。薄い紅を引いた唇をゆっくりとひらき、掠れた声で言う。
「いやです。わたしはもう、命など無いのです。もはや花は枯れ、秋には散りゆくさだめなのです」
葛の蔓は少年の四肢をつかまえて、首筋に雨の露を這わせている。少しずつ奪われる体温と、暮れる陽だけが目の前に有った。しばらくして見え始めた星空に、少年は何もかもが嫌になって、その目をとじた。
––––お稚児さん。あなたのその手に抱かれた、白秋の花、枯れし花、ここにも一度置き給え
目を開けると、朝露きらめく草原に陽が昇るのが見えた。自らを縛っていた葛は跡もなく、荒れた山肌へと変わっていた。躰の芯から戻っていく感覚が掌に達するころ、少年はその中に花の形を感じた。
「これは呪いだ……。葛がわたしに呪いをかけたんだ」
ふと思ったことを口にすると、声の掠れがなくなっていた。花を失うべき少年の永久の妄執が、音を立てて動き始めた。