「月ってさあ、かわいそうだよね」
埃をつまむみたいな手で、月を持った君は言った。私は首を傾げる。極端な角度で。
「どういうこと?」
「気づいてもらえないじゃん」
「なにを?」
「視線を」
君は草の上に寝転ぶ。自分の視線は月に向けたままだった。
月と見つめ合う君を、私は見つめる。
そっかそっか、私ってかわいそうだったんだ。諷喩の向こうに佇んでいる自分がいた。
「いや、かわいそうじゃないよ」
「なんで?」
「だって君に気づいてもらえてるじゃん」
「僕だけだよ」
「君だけで十分だよ」
私は君を見つめる。
視線が寂しそうに泳いでいる。