ぴく、と彼は反応する。
彼はあまり見られたくないのか、抱えている濃い灰色のネコをこちらから見えないようにした。
「ていうか、フード…被っていないんだね」
彼がいつもはパーカーのフードを被っているのに今は被っていない事に気付いたわたしは、何気なくそう言った。
彼は言われるまで気付かなかったのか、慌ててフードを深く被った。
「…」
いつものようにフードを深く被ったレイヴンは、無言でこちらを見た。
冷たい目を向けられて、わたしは凍り付いたように動けなかった。
暫くの間路地裏に微妙な空気が流れた。
…少しの沈黙の後、何を思ったかレイヴンはまた向こうを向いて歩き出した。
「あ、待って!」
傘…と言いかけた所で、彼は立ち止まった。
「傘、ないんなら入れば?」
ネコもいるし…とわたしは続ける。
「…」
彼は沈黙したままだ。
無視しているのかどうかは分からないが、こうなるのは何となく予想できていた。
嫌いな奴と帰るのは、誰だって嫌だろうし。
でもこの強くなり始めた雨の中、傘なしで帰るのはちょっとかわいそうだった。