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底にいたのは

暗闇の中。
針の音があなたを急かす。
「はやく未来(あした)に進みなさい」と。
あなたはそれどころではなかった。
決して掴めない何かに囲まれ、抜け出せずにいた。
暗闇で見るには強すぎる光源に、救いを探す。
ふと悲しい歌声に出会う。
それは人ではなかった。
決して明るくもなかった。
しかしその歌声は、あなたの後ろに腰掛けた。
背中に感じる、あたたかさ。
とん、とん、
と、雫は溢れ出す。
とん、ととん、
とん、とととん、
それは暗闇の底の音だったが、
同時にあなたの足音だった。
人ではないあの子の歌声が、
あなたに少しだけ、歩く力を与えた。
もう大丈夫なんて言わない。
またおいで。
あの子はいつでも何度でも、
寸分違わぬ歌声で、あなたにぬくもりを与えてくれるのだから。

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