その日の迎え時間、事件が起きた。
私は貴方を待って園庭のジャングルジムに登っていた。今もなお連絡を取り合っている美亜と、アイカちゃんも一緒だった。幼さというのは恐ろしく、数時間たてば二人ともあの険悪な雰囲気などすっかり忘れていた。
「ねえ、お休みの日、何して遊んだの?」
美亜は私たちの顔を交互に見て尋ねた。
「美亜ちゃんは?」
「私はね、ゆみちゃんと縄跳びしたよ」
ゆみちゃんというのは彼女の妹だ。当たり障りのない答えだった。
するとそれに対抗するように、アイカちゃんが口を開いた。
彼女が自慢げに話したのは、なんとも優雅な休日だった。今思えばどう考えても見栄を張った嘘なのだけれど、滞りなく話すアイカちゃんを見ると、幼い私は信じ切ってしまった。
海辺の別荘、ママの作るアップルパイ、白いリボンのついた麦わら帽子。
どれも私には縁のないものだった。
ふと、アイカちゃんを妬んでしまったのだ。
「私は、蓮くんと市民プールに行ったよ。スライダー楽しかったな。そのあとデパートに行って、蓮くんはジュースとぬいぐるみも買ってくれたんだ」
一息でしゃべってからアイカちゃんに目を向けると、起こっているはずなのに冷たい瞳が睨み返してきた。
何も気づかない美亜が一人何か話していたが、少しも耳に入らなかった。アイカちゃんの刺すような視線を受けると、なぜか罪悪感に襲われた。
逃げるようにあたりを見回す。門から入ってくるお母さんたちの中に、一人妙に派手な格好の、金色の頭が見えた。遠目でもわかった。
「蓮くん!」
アイカちゃんから逃れられたことにほっとして、思わず大きな声を出してしまった。みんなが一斉に貴方の方を向き、当然アイカちゃんも視線を動かした。
貴方はまとわりついてくる園児をよけるように大股でゆっくりと近づいてくる。ジャングルジムの下まで来ると、のんびりと顔を上げた。