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空の青さを知る君は明日海へ行く

舞には、かつて大学生の兄がいた。とても、優しくて大好きだった。でも、舞が小学生の時、ちょうど戦争が始まった年だった。両親が共働きで家ではいつも1人だった舞にとって兄はとても大切な存在だった。でも、ある時兄の元に真っ白な封筒が来てそのまま帰ってくることはなかった。そんなことを思い出したせいか、ぽつりと涙がこぼれた。幸い周りに人はいない。舞は小走りに近くの公園に駆け込みベンチに崩れるように座った。ここは、昔、兄とよく遊んだ公園だった。小学生になってからはゆっちとも遊んでいた。そう、ゆっちとも…。
放課後、帰る前に下駄箱で突然ゆっちからもう会えないことを告げられた。最初は、ただの転校だと思った。でも、答えは違った。
「ごめんね、舞、うち、親がこの前の空襲で死んじゃって…その…軍学校行くことになったの。」
軍学校。正式名称は忘れたけど、舞の住むM市には日本最大級の基地がある。その中に学校があることを聞いたことがある。そこは、児童養護施設も兼ねられている。だから、基本的になんらかの理由で親がいない子が通っているらしい。でも、自分の意思で一般校から転校してくる人もたまにいるらしいことを風の噂で聞いたことがある。でも、そんなことは舞にとってどうでもいい。これまでもこれからも関わることなんてないし、それに、通っているのは、どうせ命知らずの人しかいない…と思っていた。あの人と出会う前までは。
夏の公園は、珍しく誰もいなかった。だから、周りは蝉の声とたまに微かに吹く風の音だけだった。舞はしばらく涙がとまらなかった。何度か抑えようとしたけど蝉の声がいっそう心をかき乱した。
どれくらい泣いていたのだろう。暑さと泣いた時の疲れで頭がぼーっとし始めた時、ふと目の前に影が出来た。何事かと驚いて顔を上げると、背の高い高校生くらいの男性が立っていた。格好から軍学校の人だと一瞬で分かった。男性は舞の目の前に買ったばかりであろう水のペットボトルを差し出した。そして、淡々とした、でもどこか柔らかい雰囲気で口を開いた。
「突然、申し訳ございません。どこか体調が優れないように見受けられたので、声をかけてしまいました。良かったこれお飲みください。では」
「あ、ありがとうございます…」
舞はお礼を言おうと、立ちかけてまた涙がこぼれて慌てて手で顔を隠した。でも、相手はそれを見逃さなかったようだ。

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