「お兄さん方、何をしているのですか?」
それは、今まで聞いたことがない、とても静かで、とても冷たい声だった。
その声に思わず全員がその声の主の方を向いた。
そこには、彼がいた。無表情なその目はとても冷たく、男達を見つめていた。それのためか、自然とその空間はより、一層冷たくなったように感じた。舞は思わずその雰囲気に身震いした。
「くっ、その服…お前、あそこの学生か…ちっ。」
「こいつらには、敵わねぇ、学生に見えて力は化け物だからな、こっちが危険だわ」
男達は、舞の手を壁に投げつけるように話すと足早に階段を登り消えた。しばらく沈黙が続いたあと、舞は恐る恐る彼の顔を見た。無表情だったが、先程の冷たい空気は消えていた。彼は男達の足音が消えるまで全く舞の方を見なかったが、音が消えるとサッと階段を降り、舞の元に駆け寄ってきた。
「大丈夫ですか?お怪我はございませんか?」
彼は少し微笑みながら舞に話しかけた。舞は少し顔が熱くなるのを感じつつお礼を言った。
「あ、ありがとうございます。あの、この前も会いましたよね、えっと…」
「お久しぶりです。自己紹介をしていませんでした。若槻優樹と申します。貴女は?」
「舞です。ほんとに、色々ありがとうございました。あの、若槻さんは大学生…とかですか?」
「いえ、まだ高校2年生です。でも、よく大学生と間違えられます。」
「そうなんだ!私と同じだね。良かった、少し肩の荷がおりた…。」
優樹の顔もさっきより和らいでいるように見えた。
「自分のことは呼び捨てでいいですよ。では、私はこれで失礼します。どうぞ、お気をつけて。」
そう言うなり、優樹は素早く音無しに階段を駆け上がっていった。舞はしばらく踊り場に佇んでいた。