学校からの帰り、道端に道化師が立っていた。正確には、道化師の格好をした大道芸人、だろうか。
4つか5つのボールでジャグリングをしているが、道行く人は誰一人として興味を持っていない。
ジャグリングを止めた大道芸人だったが、一瞬私と目が合った。大道芸人は目の前の地面に置いていた帽子にボールを仕舞い、代わりに風船と空気入れを取り出した。風船を素早く膨らませ、犬のバルーンアートをあっという間に完成させてしまう。彼が放り投げた風船の犬は、ふわふわと風に乗って私の手元に飛んできた。
風船の犬から大道芸人に目を離すと、大道芸人は帽子の中を探っていた。次は何が飛び出すのだろう。そう思っていると、今度は白い鳩が飛び出した。彼はその鳩を腕に留まらせ、軽く撫でてから空に放ってしまった。
鳩を跳ね上げるように振り上げた腕を下ろすと、その手の中には、いつの間にか一輪のバラが。数度揺らすと、バラの花はさまざまな種類の花を寄せ集めた、少し不格好な花束に変わってしまった。
それからも彼は、数多の手品や芸を披露し続けた。たった一人、私という観客のためだけに。もうすぐ日も沈もうかという頃、彼は全ての手札を見せ切ったらしく、演技臭い深々とした礼を私に向けてくれた。
私は拍手も歓声もあげられなかったけど、それでも何かを返したくて、ポケットに入っていた百円玉を、指で弾いて帽子の中に放り込んだ。
チャリン、と舗装された地面に小銭のぶつかる音。彼は満足したのだろう。
百円玉を拾い直し、またポケットに突っ込んだ。
(おひねりくらい、素直に受け取ってくれても良かったのに)
私のためだけの風船の犬。素敵な記念品を貰ってしまった。さあ、もう遅いことだし、早く帰ろう。夜は『彼ら』の時間なんだから。