“この男はわかっていないのか?自分もこの復讐の対象者だと、それともわかったうえで…”
無意識の感動と裏腹に理性は疑うことをやめない。
「いいよ、そんなの」
“私”が当然断る、少しでも話を引き伸ばすためだろう
「そんなこと言わないでよ、せっかくの橘の誘いだよ?」
それに合わせて私はあえて逆を言う
“橘の誘いに何の価値があるのか”
その疑問が頭をよぎる。今までと違うのは何か価値があるのかもしれないと思い始めている自分がいることだ。
これは…まさか…彼の体の影響…?
「だって、そんなことしたら…」
“私”の演技はかなりいい所をついていた。
このままついて行けば彼に群がる女子陣に後で何をされるかわかったもんじゃない、かと言って行かなければ彼らにとって都合がよく、完全な泣き寝入りだ。
今回の目的のためにもここはいくべきである。
それを見事に表情で語っていた。
とはいえ、まさか自分の顔に対してそんな評価をするようになるなんて…
どこかおかしかった。
「そんなことしたら、またいじめられるのか?」
「そりゃ陰キャじゃしょうがないだろ、見ててムカつく」
小橋はうんざりしたかのように悪態をつく。
「どっちにするんだよ、来るのか来ないのか」
“私”はいつの間にか涙を滲ませていて、それを拭い強く私に目線を送る。不自然にならないように橘、そして小橋と順番に睨みをいれた。
「…行く」
「え?」
3人が3人とも身構えたうえで聞き直した。
「行くよ、私」
「そう来なくっちゃ」
橘は表情を崩し、口角をあげた。
「もしもの時は守ってもらうから」
「調子に乗るな、陰キャが」
いつもの悪口もどこか朗らかだ。
明らかに“私”が全てを持っていった…
私にはできない芸当だ…
私は“私”に体が奪われる気がして
嫉妬のような視線を“私”を送っていた。
「桐谷君、どうかした?」
「いや、なんでもない少し驚いただけだ」
to be continued…