ある日、学校から帰ろうとして窓の外を見ると、いつの間にか結構な勢いで雨が降り始めていた。
「うわマジか。いや天気予報をまるで見ない俺が悪いんだけどさ。今日傘なんか持ってきてねえよ」
背後から声がした。明らかに自分に向けられたこの声は、つまりそういうことなんだろう。
「言っとくが、俺も傘持ってきてないよ? 持ってきてたとして誰が野郎二人で相合傘したがるってんだよ」
振り返りながら答える。背後に立っていたのは、やはり俺の友人だった。
「そう言うなよォ、お前なんか傘持ってようと持っていまいと実質持ってるのと同じだろうがよー」
馴れ馴れしく肩を組もうとしてくる友人を躱し、とりあえず昇降口に向かう。
「ヘイどうした、まさか他の奴の傘を盗もうってんじゃ無いだろうな?」
やや鬱陶しく絡んでくる友人をスルーして、外履きに履き替える。友人も靴を履き替え、完全に傘をたかる気だ。
「いや、流石に人のもの盗もうとは思わねーよ」
「ならどうすんだ?」
「分かってんだろ?」
顔を合わせてニタっと笑う。
昇降口の周りには、奇跡的に誰もいない。
「さあさ頼んますぜ大せんせー」
おどけてそう言う友人を無視して、一度深呼吸して集中する。
「来い、穢傘・儚月」
「来たぁーッ、最高に厨二な召喚シーン!」
「うっせ」
揶揄う友人をいなしていると、空から汚れたビニール傘が降ってきた。65㎝という少し大きめの直径、プラスチック製の柔らかい骨、先端の部分についた土埃の汚れ。間違いなく俺が普段使っているものだ。
聖剣よろしく地面に突き立ったそれを引き抜き、普通に差して雨の中に出ていく。友人もいつの間にか隣に入って来てたけど、入ってきたものはもう仕方が無いか。