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夜は彼らの時間 その①

現在午前1時。親はすっかり熟睡中。ここからは私の時間だ。
いつも通りこっそりと家を抜け出し、真夜中の街に繰り出す。歩道には人っ子一人いないし、車道には自動車の一台も走っていない。この街に自分しかいないような錯覚。これが楽しいから、深夜徘徊はやめられない。
「……あれ?」
夜風の冷たさに思わず身を縮こまらせ、再び顔を上げると、少し離れた十字路を見覚えのある人影が曲がるのが目に入った。
(あれは……宮城さん?)
霊感があるらしいし、よく知らないけれど夜の方が良くないものが出やすそうだし、わざわざこんな夜中に外にいるなんて、何かあったんだろうか。
彼女を追って、彼女が入って行った道に入ってみる。50mくらい向こうの小路に、誰かが入って行くのがぎりぎり視界に入った。更に追う。そこは10mくらい入ると田んぼが広がる行き止まりだった。横道の類も見られない。まさか田んぼに落ちた?
遠くの街灯くらいしか明かりが無い、かなり暗い中だけれど、目を凝らして田んぼに近付く。観察していると、まだ若い稲の隙間に何かが動いた気がした。
「宮城さん?」
そちらに注意を向けたけれど、ふと嫌な感じがして数歩下がる。その直後、人間のものとは思えないほど長い泥だらけの腕が、直前まで私のいた空間に掴みかかって来た。腕はそのまま空を切り、その持ち主がゆらりと田んぼの中から現れた。
外見は泥水を頭から被った宮城さんそのものだけれど、明らかに人間とは思えない嫌な雰囲気を醸している。
(もしかして、宮城さんはこんな奴らをこれまで相手していたのかな……。そりゃあ『下手すりゃ死ぬ』なんて言うわけだ)
身体は恐怖で上手く動かないけれど、頭は冷静にそんなことを考えている。目の前の『何か』が宮城さんの姿をしているのも影響しているんだろうか。
一度深呼吸して、手を何度か握ったり開いたりする。大丈夫。落ち着いたら身体はどうにか動くようになってきた。
戦う術なんかあるわけが無い。今はとにかく逃げて、この場を凌ごう。

  • 能力モノの小説を書きたい欲が高まって来たので
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