むかしむかし、あるところにすぐに記憶が消えてしまう人がいました。
その人は何を食べたのか何をしたのかどんな人生を歩んできたのか友人や恋人との思い出も何かも。しまいには自分の名前さえすぐに忘れてしまうのでした。でも、一つだけ絶対に忘れないものがあったそうです。それは大好きな恋人の名前でした。その恋人は聞きました。
「どうして、私のことだけは覚えてくれていたの?」
その人も首を傾げしばらく考えて答えました。
「たぶん、世界で一番大切で大好きだからです。」
そう言って、その人はニコリと優しく微笑みましたとさ。おしまい。