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夜は彼らの時間 その②

とりあえず、まずは元来た道を全速力で引き返し、逃げ回りやすい大きな通りに出る。人の多い時間帯なら人ごみに紛れて逃げられたんだけれど、時間が時間だから仕方がない。
宮城モドキはゾンビめいた雰囲気とは裏腹に、結構なスピードで追いかけてきている。
また腕を伸ばしてくるかもしれないので、十分な距離を保つように注意しつつ、向こうを撒けることを期待して何度か脇道に入って逃げ続けているけれど、奴はどうやってこっちの位置を捕捉しているのか、確実に追いかけてきている。
向こうの足が速すぎたのもあって、逃げ回り続けるうちにすぐに息が上がってきてしまった。このまま逃げ続けてもすぐに追いつかれるだろう。
(……ちょっと行儀が悪いけど、仕方ない)
目についた家の塀を乗り越え、庭に隠れさせてもらう。庭いじりに積極的なお家なのか、隠れるのに丁度良い低木や岩がそこら中にあるのが助かる。
べちゃべちゃという奴の足音が隠れている家の前を通り過ぎ、数秒後、引き返してきた。
枝の陰から覗いてみると、家の門の前で私のいる方をじっと見ている。思わず一歩下がると、足元にあった枝を踏んでしまったようで、ぱきっ、という乾いた音が短く響いた。
マズい、と思う間もなく、奴が泥だらけの両腕をこちらに伸ばしてきた。
私まであと50㎝も無いところまで腕が伸びてきたその時だった。私のすぐ背後で、太く低い獣の鳴き声が聞こえた。私が肩を跳ねさせるのと同じように腕もぴたりと動きを止め、腕を引っ込めて元来た方向に立ち去って行った。
改めて背後を確認すると、赤い首輪を首に巻いた柴犬が、私を見上げていた。あの鳴き声が出せるとはとても思えないけれど……。
「……あ、ありがとう、ございます……」
どうにか柴犬にそれだけ言うと、柴犬は誇らしげに鼻を鳴らし、3mほど離れた犬小屋に引き返していった。柴犬が振り向く瞬間、何か大きな獣の姿が重なったような気がした。

  • 能力モノの小説を書きたい欲が高まって来たので
  • 柴犬(つよい)
  • 柴犬は多分何かに守られてる
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