「まぁ、被っちゃったわね」
「うっ」
言われてわたしはうろたえる。
「ハハハ、まさかもう1人浴衣を着て来る奴がいるなんて」
気合い入れ過ぎだろ、とミツルは笑う。
「べ、別に良いじゃん」
折角の花火大会なんだし、とわたしは言い返す。
「まぁ良いからさ」
そろそろ行こうぜ、と師郎がわたし達に言った。
「そうだね」
「そうするか」
「行こう行こう」
そう言ってわたし達は歩き出した。
…と、わたしは人混みの中である人物に目が留まった。
見覚えのあるウサギの耳が付いたパーカー。
昼間わたし達に話しかけてきたりいらちゃんだろうか。
家族と思しき男の人と手を繋いで歩いている。
「…どうかした?」
いつの間にか立ち止まっていたわたしに、耀平が声をかける。
「…あ、ううん」
何でもない、と言ってわたしはまた歩みを進めた。