あの二人組があの部屋に入ってから、数分が経過した。突撃しようとも考えたが、突っ込んだとしてどう話を切り出したものか、って話だしな……。
そんなことを考えていると、あの部屋の扉が開いた。思わず身を隠すように小さくなる。
出てきたのは、さっき入って行った二人組でも、最初に目撃した奴でも無い。そいつらより少し年上に見える女子だった。女子率高えな。
ここまで知らない奴ばかりとなると、陰キャな俺にはちと分が悪い。こっそりその場を離れて次の機会を伺おうと思っていると、出てきた奴と一瞬目が合ったような気がした。
気のせいだと自分に言い聞かせて逃げようとしたが、何故か身体が動かない。恐怖で足が竦んだ時の感覚がそれに近いが、なら俺は何に恐怖してるってんだ。
奴がこっちに近付いてくる。すごい笑顔で。何かすごい怖い。身体の重心を操作する以外の行動が全くとれない。奴との距離はもう2、3m程度しか無い。
(クッソ、こうなったら多少の怪我は必要経費だ)
重心を思いっきり後方に移動させる。こうなったら階段を転げ落ちてその勢いのまま逃げるしか無い。
作戦を実行に移す。しかし、予想に反して俺の身体は大きく傾いたにも拘らず、空中に上半身を投げ出したまま硬直してしまった。
「ッ……⁉ 何が起き」
「どうも、そこの人」
すぐ目の前まで接近していたあいつが、話しかけてきた。
「あー……どうも」
声をかけられたので、物理学的に不自然な姿勢のままこちらも挨拶を返す。
「うちの子たちの知り合いか何かですか?」
奴は引き続き話しかけてくる。うちの子?
「……えっとほら、あのー……私より少し年下くらいの女の子二人組」
なるほどあの二人組か。
「いえ、知らないっすけど……」
「そっかー……」
彼女がそう言うと、身体が自由になる感覚がした。
その結果、階段を転げ落ちる用意ができていた俺の身体は、本来の予定通りの動きをしたわけなんだが。