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無能異能浪漫探訪⑥ 足りない才能はハッタリで補う

「あ、ごめん」
上から奴が声をかけてくる。あんまり悪いと思っていなさそうな声だ。その口調のまま、奴は質問を続けた。
「それじゃあ何の御用?」
「えっ……と、ですねぇ……」
痛む身体をどうにか起こし、身体の状態を確認する。幸いにも目立つ怪我はしていないっぽい。
「……いやまあ、実を言うと俺が用があるのは、その人らじゃ無いんすよね」
「なるほど。じゃあ誰?」
俺と大して変わらない年齢だろうに、何故か異様に不気味な雰囲気を醸している。またあの身体が動かなくなる感覚だ。
「えっとですねェ……ほら、件の二人組と同年代くらいの男子がいるでしょ」
「んー? 名前で答えないんだね」
声は軽いのに、空気はどんどん重苦しくなる。呼吸も満足にできないレベルだ。まあたしかに、今の俺はただの不審人物だもんな……。
どうにか息を吐き出し、飽くまで余裕だぜって面をしてみせる。
「まあ落ち着いてくださいよ。俺もあいつとは人伝で知り合っただけなんで、そんな親しいわけじゃ無いんですって。あいつを紹介してきた奴が、ああ、そいつ市川って言うんすけど、そいつ、あれのことをあだ名でしか紹介してくれない適当な野郎でしてね……」
ここまで息もつかずに出鱈目を並べる。ちなみに市川なんて知り合いはいない。
「へえ、どんな?」
奴の鋭い反撃。さて、ここからが勝負だ。下手に名前を模したっぽいやつをあげても、奴の本名と関係無いやつを言ったりしたら嘘だってバレるもんな。手遅れかもしれないけど。
「ああ、あいつはトムって呼ばれてますよ」
「トム?」
「そう、トムソンガゼル略してトム。ほら、あいつの人並外れた謎移動。あれヤバいっすよね。縦にも横にもバグみたいに動くんだもんなァ」
横移動してるシーンは見たこと無いけど。しかし、このハッタリがどうやらプラスに働いたらしい。急に周囲の空気が正常な雰囲気に戻った。

  • 無能異能浪漫探訪
  • 前回サブタイを入れ忘れてた。ちくせう
  • 多分腕に色々やられてる
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