『コタエとケツイ』
「文紡さん、何故ですか。
何故突然想起堂を辞めてしまうのですか。
何故今なのですか。」
勘木の質問に文紡はゆっくりと応えた。
「それは私自身の問題です。
今ここで理由を説明することも出来ますが、貴方に理解させる事は至難の業です。いくら私が唄あはせの優勝者で貴方が準優勝者であっても...ね。」
文紡の辞表は皆が思っているよりもあっさりと受理された。
渚瀧院文紡としての最期の日、文紡の退任式典が執り行われた。
退任式典で文紡のする事は後任者の指名と院名の授与である。
「わたくし、渚瀧院文紡は後任者に先の唄あはせの準優勝者、『勘木』を指名致します。
そして院名『真紡院 文明』を授け、わたくしは想起堂主任歌人と専属三味線奏者を退任させて頂きます。」
文紡はこの瞬間をもって『渚瀧院文紡』では無くなった。
また、林中明動としての人生を歩み出すのだ。
文紡は文紡で無くなる前、八千代に呼び出されていた。
「文紡、貴方は記憶が飛んでいる。そうですね。」
「......何故、解ったのですが?」
「そんな事、今は関係ありません。其処には貴方がそういう状態だという事実があるだけです。」
「八千代さまは...何かを知っているのですか?」
「悪い事は言いません。私は貴方に『ファヴァー魔法図書館』へ行くことを勧めます。」
「八千代さま...一体......」
文紡は通称となり今や隣に有るのは一つの三味線。
そして文紡は旅人になる。
それは、虚空に消える藍微塵のように。
To be continued #49 『黒幕(第5章最終話)』
P.S.昨日サボったので今日は2話投稿しました。
何だかこってりしてますね、この話。
なんて意味の無い事言ってみたり笑