深夜、ナウシキでロシア入国手続きを終えて眠りにつく
そして、目が覚めたら朝日で輝くプラットホームの駅に着いた
駅名を見ると、Улан-Удэ(ウランウデ)だ
そう、この駅はかつて俺がシベリア鉄道版の鉄道唱歌作詞で省くか否かで迷った場所である
当時の苦労を思い出しながら車窓を眺める
そして、セレンガ川を渡るところで彼女を起こす
なぜなら、セレンガ川を渡ると、彼女も俺もシベリア鉄道の旅で1番楽しみにしていたバイカル湖畔の風景が見えるはずなのだから
ありがたいことに、湖畔の天気は晴れだ
そして、彼女は湖面に映る青空と小高い山の風景を見ながらボソッと尋ねる
「今も結婚願望ってあるの?昔は『25になるまでに嫁さん欲しい』って言ってたけど」
「あるようでない。」とだけ返す
「あるようでないってどういうこと?」と聞き返されたので、「今は言えないよ…俺たちがパリに着く日になれば答えが分かるから、それまで待ってくれ」と返すと、彼女がふと「もしかして、私って魅力ないのかなぁ」と呟く
だが、俺はその呟きを聞かなかったフリをして「俺が結婚したいと思っている相手は一人しかいないし、むしろその人ほど魅力がある女性には会ったことも話したこともないんだがなぁ…」と呟く
「変なこと訊いちゃってごめん。もうこの話は終わりにしよう」そう言われて話題が変わり、広いバイカル湖畔南部の町、スリュジャンカの駅でオームリという名物の食べ物を誰が買うのかという話になり、俺が買うことになった。
俺はホームにいた物売りからなんとか最後の残りを買うことに成功したのだが、彼女が美味しいと言ってガツガツ食べるものだから、俺の取り分がほとんどなくなってしまった
幼少期に弟とよく食べ物を巡って喧嘩したので、どうすれば穏便に済むかは経験上知っている
だから、残りは彼女にあげた
そして、彼女がバイカル湖をすぎて一言、「ゆう君(俺の幼少期の愛称)みたいな優しい人と結婚したいなぁ」と呟く
そして、俺も「こんな一途に俺のこと思ってくれて、健気で、天然な彼女と結婚したいなぁ」と呟く
「え?今なんて?」と彼女は訊き返すが、対向列車との離合の音でかき消されて聞こえなかった