現地時間午後7時半、薄暮の空の下、俺たちが乗るK3/0033号列車はノヴォシビルスク駅に着いた
ホームを見て彼女が一言「駅の時計とこっちの時計、合わないよ。」「どれ、見せてみな」実際に見たら笑うしかなかった
「なんだよ、そう言うことかよ」と思わず吹き出す
そして、彼女が頬を膨らませながら「どうせ私は彼氏ほど旅慣れていない田舎者ですよ〜だ」と拗ねてる
「まあまあ、落ち着けよ。原因、話してやるから」
「本当?教えて教えて!」と子供っぽくはしゃぎながら答える
「ロシアってのは、国が大きいのは知ってるよね?ロシアよりも小さなアメリカだって国土が大きいから国内にも時差がある。それはハワイとアメリカ本土に訪れたことがある君なら分かるでしょ?」
「流石に知ってるよ。でも、その話とこれって何の関係があるの?」「まあいいから、最後まで聞きなよ。シベリア鉄道はいくつものタイムゾーンを跨ぐようにして線路が張り巡らされている。だから、走らせるなら基準となるタイムゾーンが必要なんだ。そうなると、首都であり列車の起点であるモスクワの時間を基準にして列車を動かすと都合がいい。だから、シベリア鉄道の長距離便が停まる駅ではモスクワの時間を採用しているんだ。モスクワとここ、ノヴォシビルスクは時差が四時間だから、駅の時計も君の時計と4時間ズレているよ」そう言うと彼女は「さっすが私の彼氏!頼りになる〜」と笑い出した
一方、俺はと言うとその無邪気な笑顔に心を撃ち抜かれて無意識のうちに「ヤバい。俺の彼女、いや、俺の嫁さん可愛すぎんだろ…こんなんじゃ理性なんか吹っ飛ぶな」と呟いていた
その後すぐ、食堂車で晩飯を食べていると列車は市街地に挟まれたオビ川の鉄橋を渡る
「シベリア鉄道は風景が同じでつまらないって言われているけど、愛しの人と一緒なら彼女の顔だけ見てればいいんだからいい癒しになるな」と言ったら彼女が「私の彼氏って、こんなロマンチックな人だっけ?」と自問してる
そこですかさず、「フランスと江戸っ子と華族文化が入り混じる街の出身だからな」と笑う
そして、2人揃って「これからもずっと一緒だよ』と言う
シベリア有数の大都市の夜景が俺たちの将来を照らし、祝福してくれている中を列車はモスクワに向け突き進み、俺は彼女の誕生日プレゼントを買うべく、グム百貨店のカタログを読み漁る