午前5時、降りしきる雨の音で目が覚める
カーテンを開けて外を見ると、雨で視界が真っ白になる中建物の灯りだけが黄色く輝いている
まるで,早朝のイルミネーションだ
ロシアと言えば、言わずもがな紅茶文化圏だ
それ故、このホテルの部屋にも給湯器とティーバッグがある
冷蔵庫には無料と書かれた袋の中に使い捨て容器に入ったジャムがある
日が昇り切るまでに急いで給湯器でお湯を沸かして,紅茶を淹れる
雨の音、愛しの彼女の寝息、街明かり、東の空の色
この全てが織りなすハーモニーはロシアの伝統に近いスタイルで頂く紅茶の味を引き立たせてくれる
「おはよう。今何時?」彼女が眠そうに目を擦りながらそう訊く
「おはよう。起こしちゃったかな?今、朝の5時半だよ」
「え?5時半?そんなに早いならもうちょっと寝たかったなぁ…って、外の景色、綺麗だね」「そうだな。タワーブリッジを渡る二階建てバスの二階席から見たロンドンの街並みを思い出すよ。あの時もこんな風に雨の音が聞こえたんだ。」
「そっか…ロンドンもペテルブルグも,貴族の街で太い川が流れてるんだよね。ロンドン、憧れの街なんだ」
そんなやり取りをして、彼女もおもむろにカップを手に取り紅茶を淹れて飲む
隣の部屋のテレビから俺が昔元カノと付き合ってた頃によく歌っていた思い出の歌が流れてきた
時計を見れば午前6時だ
窓を開けるとひんやりとした風と雨の音が部屋に入り込む
そして、「さあ、行こうか」
「それ、俺のセリフや!」そう言って2人顔を見合わせて笑う
荷物を持って外に出ると、空にはネヴァ川を覆うように虹がかかっていた