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ユーラシア大陸縦横断旅34

昼下がり、ネヴァ川の船に乗る。
彼女は「歴史の街なのに、船は現代的だね」と呟く
「言われてみれば現代的だな。でも、この船、幼少期に乗ったヤツに似てるなぁ」と返す
「どこで乗ったの?もしかして,ここ?」「いや、ロシア自体今回初めてだったんだから、ここでは乗ってないよ。東京湾の水上バスさ。母さんに連れられて,よく葛西臨海公園に遊びに行ったんだけど、その時はお決まりのように夕陽に照らされて輝く臨海副都心やレインボーブリッジを眺めながら水上バスでお台場に行っていたことを思い出してね…」そう言うと、「じゃあ、そっちのカメラのカバー貸して」と彼女の一言
彼女の意図に気付いてカメラからカバーを外して差し出す
そして、「俺,こんな粋な計らいしてくれる女の子と付き合ったこと,一度もねぇなぁ…」と呟く
「どう?惚れ直しちゃった?」と彼女がいつもとは逆の立場で揶揄ってくる
流石に恥ずかしくなって,「察してくれよ」と返す
彼女が「好きな人を揶揄うのって、意外と楽しいね」とイタズラっぽく笑うと、俺も苦笑いだ
しばらくして、ピョートル大帝の像が見えて来た
「あっ!騎馬像だ!」と叫ぶ
「これがピョートル大帝の像か…って、向こうに要塞が見える!ということは、この先の右に見えるのはエルミタージュ美術館だよ」と教える
「私、本当は絵画も含めて宮廷文化には興味ないんだ。でも、ここってもともと貴族の街だから『美術館が多い街に来て美術館に行かないとは何事だ』って怒られそうだったから宮殿も見てみたいって言ったんだ」と彼女がポツリと呟く
「この街には宇宙開発の歴史を知ることができる博物館があるし、過去の戦争についての博物館もあるよ。要塞が見たいなら、港の沖にある要塞地帯、クロンシュタット行きの観光船の空き便も探してみるし、他の場所も探してみるよ」と返す
そしたら、積もりに積もった思いが込み上げてきたのか「やっぱり、優しいね」と一言呟くと泣いてしまった
「俺は心から幸せになれた時期よりも多くの人から傷つけられた時期の方がはるかに長いんだ。だから、どんなことがあっても、俺が傷つかないように気を配ってくれる人をパートナーにしたいと昔から思っていた。そんな理想の異性というのが君というだけさ」と返し、彼女を抱き寄せる
バルト海に沈む夕陽は水面に反射し、巨人のホームカラーに輝いていた

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