「こんな話を知ってる?」
下校中、偶然出くわしたあいつがいつもの切り出し方で話しかけてきた。こいつがこの言い方をするのは、毎回必ずオカルト絡みの話をするときなんだ。正直飽きてるんだが、とりあえず聞き流すことにして、あいつの話すままに任せる。多分これが一番良いやり方だ。
「学校の七不思議の一つなんだけどね、6時6分に西の階段の踊り場の壁にかけてある鏡を見ちゃいけないっていうの」
「へえ」
「見るとどうなるか、これが分かりやすい。鏡に映った自分が、自分を殺しに来るんだ」
「そりゃ怖い」
「まあ、躱すだけなら簡単なんだよ。そいつは鏡の外に完全に出てくることはできないから」
「そりゃ怖くない」
「いやいや、こいつが恐ろしい代物でさ。たとえその場を逃げ出したとしても、一度現れたら最後、ありとあらゆる鏡面に現れては狙ってくるんだ」
「そりゃ怖い」
「助かる方法は簡単。一度学校の敷地内から逃げ出してしまえば良いのさ。次の日にはもう安全に戻ってるからね」
「へえ」
「……ところでこれ、うちの学校の七不思議じゃ無いんだよね」
「……は?」
「君の学校の七不思議なんだよ」
こいつとは高校に上がってから通う学校が別になったわけだが……何故そんなことを知っているのか。
「つーかなんでそんなこと俺に教えんだよ。明日からどんな気分で学校行きゃ良いんだ」
「何も知らないよりは安全かなー……って」
「季節が悪りィよ季節が……」