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ユーラシア大陸縦横断旅64

霧に包まれたタワーブリッジを渡り、第二次大戦中に対独戦のエースとして活躍し、ドイツ降伏後は対日戦に備え対空装備を充実させたが装備が整うまでに終戦を迎え、戦後には博物館としてロンドンに係留されて保存された歴史を持つ元軍艦の博物館船HMSベルファストに入る
甲板に出てみると彼女は川の対岸に広がる中世の伝統に則って建てられた歴史的建造物群に見惚れている
俺はというとそんな彼女の横顔を見惚れて即興の替え歌を口ずさむ
「川面に〜渋く光る〜♪ロンドンの守り人なのに名前はなぜかアルスター由来」と歌うと、彼女が反応して「アルスターってどういうこと?」と訊いてくる
「このベルファストをはじめとした巡洋艦というジャンルの軍艦の総称知ってる?」「タウン級でしょ?」「そうさ。ちなみに、ベルファストは北アイルランド、つまりアルスター地方の大都市が由来だから、イングランドの都を守った軍艦の名前がイングランドとは関係ないアルスターの町から付けられたことをちょっとネタにしたんだ」
「それを言ったら、レイテ沖で沈んだのは東京由来の軍艦でしょ?」という反論のしようがない正論を返され「一本取られたなぁ」と言って笑うと彼女も笑い出す
そして、しばらくして「たかだか80年ちょっと昔に敵対していた国の軍艦のことをネタにして笑えるほどの平和ってのはありがたいな。当時の戦争を体験して、かつての敵国を未だに憎む人だっているのに、友達のように扱ってくれる国が多いのは外交努力の賜物だな」と呟く
「そうね。アメリカに至っては震災の救出作戦で日本語の『友達』をそのまま作戦名に使ってくれたのは知ってるでしょ?」と返ってくる
「そうだな。東郷神社も記念艦三笠もアメリカの援助がなければ戦争で消えてそのままだったし、震災が起きるとすぐに救助隊出してくれたから感謝してるよ。それに、東郷平八郎とアメリカ海軍の話題が無ければ君とは海外の話で盛り上がれなかった。そういう貴重な経験をくれたという意味でもアメリカには感謝している。ただ、言葉は別だね。あんな癖の強い英語は俺には合わない」と言うと「私にはマーマイトみたいに癖の強い英語は合わないんだけどね」と言って彼女が苦笑いを浮かべる
「マーマイトとハギスは俺にも合わんよ」と言って俺も笑うと何度目かわからないお馴染みの鐘が鳴る

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