(そうはさせるか……! それにテメエの攻略法なら、既に『複数』考えてあるんだよ!)
奴が完全にしゃがみ込み、普通にしていれば目が合わないなんてあり得ないほどに身体を折り曲げた。しかし生憎と、現実の俺と鏡の中の俺の目が合うことは無い。
咄嗟に出したスマホのライトで照らされて、反射光で完全に顔が潰されてるんだからな。ちょっと眩しいが、この程度はコラテラルダメージだ。
「ザマァ見やがれ」
鏡像に中指を立てて校舎を出る。向こうも中指を立てて返した。所詮は反射だ。
「やあ、お疲れ様」
「ん」
校舎を出て数歩、あいつが背後から肩を叩いて労ってきた。間違っても後ろは向かないようにする。また鏡面を見る羽目になっちゃまずいし。
「いやぁ、奴が勝手に動いた時にはもう駄目かと思ったよ」
「あんま俺を舐めんなよ? お前から怪談を聞いては『主人公もこうすりゃ良かったのに』なんて妄想してんだぜ」
「私が君の生存に一役買ってたわけだ。嬉しいことだね」
「身の程を弁えろ元凶」
「はっはっは。ところで奴の出現範囲は、『学校敷地内』だ。校門までもう少しだけ、気を張っていた方が良いと、私は思うね。……そういえば今日は午前中、雨が降ってたね」
「わーかってるって」
用済みになったスマホはうっかりオフになった画面を見ないようにポケットに仕舞って、校舎からは全力で目を逸らして、俺たちは無事に帰途についた。
ちなみにあいつは不法侵入について何のお咎めも無かったらしい。というか侵入を気付かれてもいなかったらしい。たしかに他の生徒や教師の姿は見なかったが、侵入者が全く気付かれず好き勝手歩き回るとか恐ろしいことだよなぁ。