私は残念に思って、一緒に外を見ていた。その汽車は川に沿って山を下っているんだ。車窓から外を覗くとすぐ近くに川がある。それを見ると……
「わあっ」
なんとだな、川が上向きに流れていたんだ。
「ここの川は上向きに流れていくんだね」
私は驚いて、思わず傷痍軍人さんに言った。
すると、あの人は少し笑った。
「そりゃあ面白いね。でも、上向きに流れているわけじゃないんだよ。川が流れるより汽車が走る方が速いから、逆流しているように見えるだけなんだよ」
「そうだったんだ。変だけど面白い」
「それは良いことだ」
傷痍軍人さんは満足げに頷いて、私の頭をがしがし撫でた。それから立ち上がって、
「そうやって、何でも面白がってみるといい。すると、世界は広がるんだよ」
と、そう言った。
「広がる?」
「そうだよ。じゃあ僕はここで降りるよ。これからいろいろ大変だろうけど、頑張るんだよ」
それで、傷痍軍人さんは汽車を降りた。
私はこの時はまだ小さかったからな、傷痍軍人さんが言っていたことの意味は、実はほとんどよく分からんかったよ。
でも、あの人に出会った記憶は、何十年経っても、不思議と忘れることはなかったのだ。
エ?言っていたことの意味?さあ、何だろうな。考えてみるといいさ。分からない?ああ、泣くな泣くな。もう少し大きくなったら分かるようになる。
なんでこんな話したのかって?
これはな、伝言なんだ。だから話した。
サア、これからはお前が頑張る番だ。
終