「御機嫌よう。ようこそいらっしゃいましたわ」
伽は突如現れた人外存在に怯む事無くにこやかに話しかけた。
『気ニシナクテ良イノヨォ。オ姉サンノ言ウコトナラ何デモ聞イチャウヨォ』
人型もケタケタ笑って返す。
「実はですね、この辺りで人外のモノを探していますの。できるだけ大きなものが望ましいのですけれど……心当たりありません?」
そう問われて、人型は顎に指を当てて考え込んだ。
『フゥーンム…………。イヤ、マアネ? オレモ根無シノ浮遊霊ダ、ソノ手ノ噂ニハ明ルイ自負ガアルヨ? ケドネェ……オ姉サンヲ危険ニ晒シチャア、オレガ何言ワレルカ分カンネーノヨ……』
「あら心配してくださるの? ご安心なさって、向かうのはこの子ですわ」
伽は悩む人型に笑いかけ、月を指しながら言った。月も突然注意を向けられて一瞬きょとんとしたものの、すぐ微笑んで人型に手を振ってみせた。
『エ、マジデェ? ソンナラドーデモエーワ! チョイト待チナィ!』
口しか見えない表情を輝かせた人型は、腕を構成する靄を一度ほどき、変形させて再び固定した。
『ジャジャァーン、オレ製コノ街ノ地図。チョウドココノ所ニアル空家ガヤベエノヨ。見タ目ハ立派ナ日本家屋ナノニ勿体無イ』
人外の靄で構成された地図を数十秒かけて頭に叩き込み、月は姿勢を正した。
「ほうほうなるほど。ありがと人型さん。じゃ行ってくるなー」
『オウ逝ッテコーイ!』
伽と人型に手を振ってその場を去る月を見送り、伽は不意に先程までとは異なる冷たい表情を人型に向けた。
「……ところで貴方。身体が半分も削り取られて、まだ動けるんですのね?」
『……エ? エ、アレェ⁉ アバ、アババーッ⁉』
自身の異常を思い出したように断末魔をあげて崩れていく人型をその場に放置して、伽はその場を離れた。
「近頃この辺りに出没していた浮遊霊の退治、終了。ルナちゃんがちょうど良く通りかかってくれて助かりましたね」