今からする話は、まだ幼かった少年と不思議な男との些細な出会いの話だ。
少年はまだ幼稚園に通う程の年齢だった。しかし、貧困する程ではなかったが、家計に余裕はなかった。両親も共働きで幼稚園や保育園に通わせることを望んでいたが、本人に通う意思がなかった。親の方も通園費を考えると、子供の決断には好意的だった。こんなことで教育を諦めることには抵抗と罪の意識を感じていたようだが、内心安堵していたのも確かであった。だから両親が働いている間は、母親の姉の家で過ごした。
少年の祖父は東京の有名な大学に通っていたので娘たる母親とその姉も学があり、少年に様々なことを教えてくれて、少年は彼女のもとに行くことが好きだった。彼女も子供が居らず、少年が幼稚園にも保育園にも行かないと聞いて、自分から預かると名乗り出たそうだ。
少年は、彼女の家に行く前に自分の家の近くにある公園のベンチに座って、ぼうっとして空を眺めることが好きだった。朝の30分だけ、誰も居ない、静かな公園で、ゆったり流れる雲を見ながら呆然とする。
余談だが、こういった子供らしくないところもあり、少年はあまり大人に好かれてはいなかった。きっと子供にも好かれなかっただろう。
ある日和良い春の日。
その日も少年は何を考えるでもなく、足をユラユラさせていた。
すると、
「おはよう、坊や」
柔らかい男の声だった。周辺に少年以外の人間が居ないので、自分に向けられたものだと思い、少年は声の主に目を向けた。
男は、祖父が着ていたような服を着ていた。祖父の若い頃の写真を見た時変な格好だと思ったので、男のことも同様に変だと思った。しかし不思議と嫌な感じはしない。同時に、既視感があった。
「おはよ」
挨拶を返すと、男は人当たりの良い笑みを浮かべて「隣いいかい?」と訊いた。少年はこくりとうなずく。
明らかに不審だったが、この時の幼い彼はこの人は誰なのか、程度にしか思っていなかった。
てっきり「かなで」だと思ってた。
まぁいいや、これからもよろしくお願いします。