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Trans Far-East Travelogue㉖〜野球大会最終編〜

お立ち台には俺と彼女が揃って並ぶことになった
「昨日今日で連続登板して勝ち星を重ねた秘訣はありますか?」との質問に「秘訣は無いですね。大好きな彼女の笑顔を見たいという気持ちで全力プレーしてたら知らないうちに勝ってました」と答えると、会場は笑いに包まれる
女房役の時の心境と感触を訊かれ、「東京生まれの彼氏に相応しい勝利をプレゼントしたいと思って受けてたら、彼の優しさに気付きました。初回の攻守交代で守る前は『どの球種で抑える?方針があるなら、それに従うよ』とベンチで声かけてくれて、それ以降は攻守交代で守備に入る度に『パターン変えるか?』とその都度確認してくれて、私の意思を最優先にしてくれたので受け易かったです」と彼女が答えたので、球場は歓声に包まれた
兄貴の彼女さんが俺の彼女に手渡すのが見えたが、続いて想定外のことが起きた
「私、貴方のファンです。この紙にサイン下さい」と言って彼女がスッとペンと紙を渡してくれたので、サインしようと紙を見たら嬉し涙が止まらず、汗と涙でロジンを手に付けないと何も持てない状態になってしまった
署名捺印の済んだ婚姻届を渡されたので無理もない
我に返ってすぐ「緊張するなぁ…俺、サイン求められたの初めてだし、それで記入するのが婚姻届って中々無いぜ」と言って笑うと、球場中が静まり返り我々の様子を見守ってくれている
「よし、書けた!捺印は実家でやるか」と言うと「判子ならポケットに入れてあるよ」という彼女の一言に驚いてポケットに手を突っ込むと本当に判子があったので、捺印すると報道陣のシャッター音が聞こえ、その場にいたラジオ局のアナウンサーが「我々は今、歴史的瞬間に立ち会っています。今大会の名バッテリーが夫婦になる瞬間に立ち会っています。まさに、生涯バッテリーの誕生です」と言い出すので「またも野球絡みで流行語か」と笑いながら彼女に書き上がった書類を渡すと彼女が「そちらの区役所に明日の朝提出で良い?」と言い出すので、「こんな形で地元帰るのかよ」と言って笑う
閉会式終了後、着替えを済ませて車内のベッドで仮眠を取り、寝台特急サンライズ号に乗って東京に帰ると朝早くにも関わらず、地元の大通りを通って地元を一周する形の祝賀パレードが行われ、沿道から流れる俺の象徴、読売ジャイアンツの球団歌と彼女の象徴、黒田節が俺達を歓迎してくれた

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