「よくわかったな。ぼく男って」
「そりゃ分かるさ。俺も子供ん時着せられてたから」
男は苦笑いした。
それもその筈だ。よく分からないまま女の格好をさせられるのだから。
その時の少年も桜色の、春らしいワンピース姿だった。不快に思ったことはなかった(むしろ気に入っていた)が、他の子供とは違うことは周りを見れば明々白々だった。
「坊や、何で女の格好させられてるか分かるかい」
「しらない」
「そうだよなァ、俺も自分で調べて知ったんだけれどね、あのね、子供は七歳までは神様の持ち物なんだって」
「へえ。それじゃ神さまにかえさないとな」
「その通り、頭がいいなァ。だから昔は7歳までは子供が死んでも文句は言えなかったんだ」
「でもぼくのいえのちかくの子はみんな生きてる」
「アア、そうだよ、それはね君、今は医療技術が発達して平和になって、幸せになったからなんだよ。つい50年前は十分な食べ物が無くて、病気にかかってもまともな治療なんて受けられない人も多かったからね」
男は少年がよくするように空を見上げる。ぼうっと、何か特定のものというより空全体を見ているようだった。しかし彼の眼は空をも見透かし、その向こうの何かに思いをはせるようだった。
少年もしばらく男を上目で見つめて黙る。
暖かい風が間を通って、男は一瞬目を伏せた。少し寂しそうな表情にも見える。その時の少年には分からなかったが。少年が「なあ」と呼び掛けると男は意識を取り戻したようにヘラヘラ笑った。やっぱりまだ寂しそうだった。
「何だい?」
「つづき」
「アア、ごめんごめん。
それでね、7歳まで子供を女として育てると、体も丈夫になって長生きできるんだね。だから女の格好させるんだよ。おかしいよね、だってもう神様にとられることないのに女の格好させる必要ないもの。ご先祖さんはそんなに子供亡くしたのが悲しかったのかな」
「ぼくはべつにいい。みんなとちがくてへんだけど、かわいいのすき」
「ホント?俺はそんな好きじゃなかったなァ。俺はね、こんなヒラヒラのじゃあなくてね、着物着せられてたよ。可愛いのだけれど動きにくいのだ。見たことある?」
少年はコクっと首を縦に動かした。
「おばさんちの本で見た」
「そっかぁ。坊やは物知りだねえ」
男は感心して喜色を浮かべ、満足気にウンウン頷いた。