「それじゃ、イタダキマス」
鬼と化け物がぶつかり合う激しい戦闘音を気にかける様子も無く、月は人影にのしかかったまま手を合わせた。
「どこからいこっかなー……やっぱ取りやすいとこからかなー……」
ぶつぶつと呟きながら、人影の肩の辺りを押さえた膝でそのまま腕に当たる部位を踏み折り、付け根から外れた腕を拾って食べ始める。
「……うーん……あっさりめ。まあメインディッシュは向こうにいるし」
十数秒で腕の1本目を食べ終わり、もう片方にも手を付ける。
(……しかし私の異能、『鬼神の指揮者』。オバケを食べることで能力を使う原動力にしてるわけだけど……、そのオバケを食べるために能力で顎を鬼化させる必要があるわけで、それでまたお腹が空いてくる……)
「…………控えめに言って最高」
食べ進めて最後に残った腕の付け根を口内に放り込んでから、月は心底幸福そうに呟いた。
「さて、次はどこにしよ…………座り心地悪いなァ」
最後の抵抗にのたうつ人影に苦言を吐き、両手を頭部に当たる部位にかけ、勢い良く捻る。頭部が120度ほど回転した人影はそれでもなお暴れていたが、月の手刀が首を切断すると、それきり動かなくなった。
「さすがにちょっと大きいかなー……まあいけるいける」
頭部を持ち上げてしばらく眺めていた月だったが、鬼化した下顎をさらに縦に分割し、蛇が獲物を食らうようにその頭部を丸呑みし始めた。途中、化け物に殴り飛ばされた鬼がすぐ横を飛んでいったが、指だけで再び化け物に立ち向かうよう指示すると、鬼はすぐに体勢を立て直し、また突進していった。
「……………………ふぅ、さすがに頭まるまるはきつかったぁ。そろそろ鬼にも申し訳ないかな。さっさと残りも食べちゃお」