「ごちそーさまでした」
未だ飲み込み切れない霊体組織に口をもぐもぐさせながら手を合わせ、月は化け物に向き直った。
「鬼、ご苦労」
床に倒れて動かなくなった鬼の背中を踏みつけつつ、化け物に近付いて行く。彼女が通り過ぎるのと同時に、鬼の身体は彼女の足元に吸い込まれるように消えていった。
「さて、待たせたなぁ」
化け物が咆哮をあげ、両腕を彼女に向けて伸ばしたが、月の目にも留まらぬ蹴りがそれを弾き返し、衝撃に耐えきれなかったのか片腕は2つ目の肘関節から捩じ切れ落ちた。
「どした? この程度か? ほらほら頑張れ頑張れ」
にやつきながら化け物を睨む月の両目の上には、いつの間にか新たに1対、金の虹彩と縦長の瞳孔を具えた眼が現れている。
化け物が残った片腕で薙ぐように攻撃を放つ。遠心力によって化け物自身の能力以上の威力を持っていたそれを、月は片手で軽々受け止め、膝を使って蹴り折り引きちぎった。
「ほらほら、もうお手てが無くなっちゃったなァー?」
ちぎった腕を引きずりながら更に近付く。化け物が短く吠えて噛みつこうとしてきたが、月は一度腕を放り捨ててから片手で受け止め、下顎を鬼化した脚で踏みつけ、押さえた片腕で上顎を持ち上げ、動きを完全に封じてしまった。
「あーらら、もう動けなァーい。……さて」
鬼の牙の並ぶ口を耳まで裂けさせたにたにた笑いを化け物に向け、空いた片腕を虚空に向けて突き出す。
「戟、来ぃ」
無から突然現れた矛状の武器を掴み、開かれたままの化け物の口の中に突き刺し、その頭部を貫通させる。無数の眼球が一瞬ぎょろぎょろと動いたが、すぐにそれらは動きを止め、薄灰色に濁り、月が戟を消すと支えを失った死骸は壁から剥がれ、畳を数枚吹き飛ばして床上に斃れた。
「よしよし、鮮度は大事だし、さっさとイタダキマス」
露わになった床板の上に座り込み、化け物の残骸をかき集め、月はゆっくりと食事を始めた。