「……暑いね」
偶然そこらで遭遇してから道連れになった異能者が呟く。多分俺に話しかけているんだろう。小さく頷いて応える。声に出して応じる余裕なんぞ残っていない。
その理由は何と言ってもこの環境だ。確かこの辺りは、人口10万人弱のそれなりの規模の町だったはずじゃないのか。なんだって建物一つ見えない砂漠と化していやがる。
「今2月だよ? 冬将軍はどこでサボってるのやら……日陰、無いかなぁ……」
見りゃ分かるだろうよ。地平線の向こうまで、砂でできた平面と丘しか無い。
「…………ああそっちじゃないそっちじゃない」
道連れが俺の腕を引いて、数度進路を変える。
「何すんだ」
「いやぁ、水源に向かうのは良い。それはあり。でも、離れる方向に行くのは良くないよ」
「…………?」
何を言っているのか分からん。
「あれ、言ってなかったっけ? 私の異能、『水の観測者』。水源までの距離と方角が分かる」
そういや会った時に何か言ってたような気もする。
「砂漠で遭難した時ぐらいしか役に立たないと思ってたけど、まさか日本で砂漠で遭難する機会に恵まれるとはねぇ……鳥取以外で」
「鳥取に砂漠は無い。ありゃ砂丘だ」
「あれ、そうだっけ」
「ちなみに日本一デカい砂丘は青森にある」
「何で知ってるの?」
「高校で地理取ってるから」
「へぇ」
畜生、無駄に喋ったせいで体力削れた。