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理外の理に触れる者:海殺し その④

水のコンパスを眼球の無い顔で見ながら、ひたすら砂の上を歩き続ける。あいつが話さなくなったせいで、実に退屈な作業と化している。鬱陶しいだけだと思っていたあいつも、結構大きな働きをしていたわけだ。
「おい怪獣」
不意に声をかけられた。声のした方に目をやるが、砂しか見えない。
「こっちだって」
そっちを見てるんだが。
「…………ああ、そういえばそうか」
目の前の砂の塊が突然崩れ、その下に偉そうに膝を組んで座る少女が現れた。
「やあ、良い天気だな?」
少女が話しかけてきた。とりあえず何も言わず睨み返しておく。
「……何だよぅ、返事くらいしてくれても良いんじゃあないの? 私、女王さまぞ?」
「ハァ?」
「お、喋った。ただの怪獣じゃないみたいだな?」
「誰だお前。女王だァ?」
「うん。異能は『無生物の支配者』、人呼んで“無命女王”。それが私だよ」
「へえ、知らない名前だ」
「怪獣よー……もっと周りの異能者に興味持て? 私、ここら一帯のボスみたいなものぞ?」
「へえ、そいつは知らなかった」
「……まあ良いや。私は用事があって忙しいんだ。その代わりに、ほれ」
周囲の砂が浮き上がり、矢印の形をとる。コンパスが指すのとはちょうど90度ほど進路がズレていやがる。
「この砂漠は、異能者が創り出したものだ」
「ンなこたァ分かってんだ」
「お前、行って止めてこい。日差しと乾燥は身体に悪いからな」
「悪いが、こちらも用事があってな」
「そっかー……」
無命女王とやらがこっちに指を差してくる。直後、手の中の水のコンパスが弾け飛んだ。
「あッ! おま、何しやがった!」
「水源なら連れて来てやる。そいつ置いてさっさと行かんか」
奴が地面を指差すと、砂の地面に小さな穴が開き、結構な勢いで水が噴き出した。地下水だったとしても透明すぎる気がしないでも無いが、まあ異能の影響だろう。
「これでそいつも平気だろう。早く行って来い」

  • 理外の理に触れる者
  • そういえば2月も半分を過ぎましたね。
  • この女王さま地味にヤバい奴だな
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