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理外の理に触れる者:蝶と鴉と猫 伍

黒羽は不思議な子どもだった。
地元では有名な地主の子どもだったが、妾の子だったがために父方の家からは疎まれた。
それに黒羽の周りではいつも不思議なことが起こった。
小動物が次々と死ぬのだ。
あの子は死神だ、周りの人々は皆こう言った。
やがて実母が亡くなり、身寄りもなかった黒羽は父方の家に引き取られた。
黒羽についてあまりいい噂を聞いてこなかった父方の家は、黒羽を屋敷の離れに押し込めた。
それから10年くらい経って、黒羽は屋敷を追い出されるような形で街外れの古民家に引っ越した。
理由は簡単、黒羽が不気味だからだ。
黒羽が触れたハトが死んだ。
黒羽の傍でネズミが死んでいた。
黒羽の部屋にあった植木鉢の植物が枯れた。
もしかしたらあの子は本当に死神かもしれない。
このままでは自分達も殺されるかもしれない。
そう思って、屋敷の人々は黒羽を追い出した。
でも黒羽にとって、それでよかったのだ。
ずっと屋敷の離れに閉じ込められてているより、外へ出られた方がマシなのだから。
しかし平穏は長く続かなかった。
黒羽が、街外れで”獣“に襲われたのだ。
何の動物だったかは分からない。
ただ明らかに、街中にいるような生き物じゃないことは確かだった。
「…」
その時、“獣”に襲われて血だらけの状態で黒羽は道端に仰向けになっていた。
このまま死ぬんだろうな、と人気のない道端で黒羽が思っていると、声が聞こえた。
「よぉ」
見ると建物の垣根にカラスが留まっていた。
「お前そんな所でどうしたんだ」
カラスが話しかけてくるのは不思議だったが、それを気にする体力はその時の黒羽になかった。
「…さっきお前が襲われる様子を見たんだが、アレは“異能者”の仕業だな」
“異能者”、聞き慣れない単語に黒羽は身じろぎする。

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