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輝ける新しい時代の君へ Ⅳ

 表情筋は殆ど動いていなかったが「オヤ坊や、嬉しそうだね。そんなに俺と会えて嬉しいかな」と、男は喜色満面で隣に座った。
 すると少年は少し俯いて、上目だけで男を見て、
「うん」
と頷いた。男はもっと薄い反応が返ってくると思っていたので、意外な反応に困った様にはにかんで、坊主頭を搔いた。
「あっはは、冗談だったんだが……そんなちゃんと言われると照れるなァ……」
「?なんでだ?」
 追及されると余計困ってしどろもどろになって、手と頭を横に振った。
「えええ、変なところで食いつかないでよ。子供って分からないなァ……。それよりも、俺ね、君の話聞きたいなァ。昨日はおばさんの家で何をしていたんだい?」
 少年は男の様子が滑稽でつい吹き出した。男も苦笑する。
「笑わないでよ」
「えへへ、うん、ごめん。あのね、きのうはたくさん本よんだんだ」
「いいね、俺も読書は大好きだよ。どんな本読んだんだい?」
「あのな、『どくもみの好きなしょちょうさん』っていう絵本を読んだ。おもしろかった」
「オオ、いいもの読むね。俺も宮澤先生の作品は好きだよ。若い頃よく読んだよ」
「みやざわ?」
「うん、宮澤賢治さん。『銀河鉄道の夜』って知ってるかい。アレ作った人。『毒もみの好きな署長さん』作った人も宮澤先生だね」
「へえ。『ぎんがてつどうのよる』おもしろいか?」
「アア、とても。でもね、君にはね、まだ少し難しいと思う。今何歳だい」
「うーん……六さいだ、とおもう」
 曖昧な回答に男は苦笑した。
「確かでないね」
 少年は踏み固められた地面に咲く西洋蒲公英を睨んで黙りこくった。嫌な質問だとか答えたくないとか、重大に考えているとか、そんなことではない。これは少年の癖で、話す事柄をまとめる時に機嫌が悪いような顔になり、固まってしまうのである。
 その所為で誤解されることも多い。好かれない理由の一つでもあった。
 しかし男は優しい目で黙って返答を待った。これが今の少年に必要なことだと分かっていたのかもしれない。或いは大した質問ではなかったためスルーされてもいいと思ったのか。

  • 毒もみの好きな署長さんはいいぞ
  • 男があまりに不審者だ……
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