「あぁ……」
俺は遂に倒れ込んだ。
昨晩までの雨で川の様に泥水の流れるのも気にしないで。俺の右半身は泥にめり込んで、温い水が滲みて身体がいつもより幾倍も重く感じた。
白骨街道。
抜け出せぬ牢獄だ。人々はインドに渡る前にバタバタ死んでいった。道端には死体や、もうすぐ死体になる者があちこちに落ちていた。皆瘦せ細って泥だらけになり、異臭を放っていた。1週間続いた雨はそれらの腐食を早め、ふやけた皮膚を大量の虫が食い千切り体内に潜り込む。俺もその一員になるのだ……。
体中が痛い……力が入らない……熱帯熱にもやられているらしい……意識が朦朧としている。しかし目を瞑ったら死ぬ気がする。腹は減っているのに吐き気がする。固形物はもう身体が受け付けなくなって久しい。昨日も胃液を幾度か吐いた。ああ……水が飲みたい、綺麗な水が……。
俺は泥水を啜りながら思った。
夢中になって二口三口する。だが少ししか飲み込めず吐き出してしまう。液体でも駄目になったか……。
……俺ももう死ぬな……そんな考えが脳裏をよぎった時、気が楽になった気がした。
ああ……帰りたい……帰って綺麗な水が飲みたいなァ……彼らもそうだったんだなァ……この水は、泥と、彼らの体液と、腐臭と、怨念とを混ぜて……俺はそれを飲んだ……。
それが俺を生き永らえさせた……そして俺は今……死ぬのか?
死ぬことは、許されるのか?
終