ff
『思い切りは大事やけど雑になったらあかん』
そう言って何度も、どれだけ時間が経っても、君は冒頭のffを演奏し続ける。額に汗が浮かんでも、その汗が首筋を流れても、その音は止まらなかった。
「無理せんといてね」
言いたくて言えなかった、横顔に見とれていた、その音を少しでも耳に残しておきたくて、ffの衝撃を全て隣で受け止めた。まっすぐな君の性格が、そのまま音になったようだった、私の心を容赦なく裂いてずんと掴んで奪ってしまった。
「今日の調子はどうなん?
あんなにff出てたやん」
『全然』
「理想高いのなー、まぁそれがいいとこか」
無口な君の耳は赤い。少し乱れた呼吸が私の耳にも届いて、胸がきぅ、と痛んだ。
チャイムが鳴る。そそくさと片付けを始める背中を見て、「そこが好きなんよね」と呟く、届かないように、そっと宙に任せてみる。